里山倶楽部自然農場日記9月号

2020.8.28


稲の花

先日知人から「農業はどのくらいの規模でどのくらいの売り上げをやれば利益があがるのか?」という質問をいただきました。

この質問にはとてもじゃないが一言では答えられません。でもせっかく命題を頂戴したのですから何とか私なりに考察してみようと思います。

先ず農業にとっての利益とは?資本主義の世界では企業は利潤を追求することが大きな使命です。特に株式会社はいかに利益を上げて株主に還元するか、それができた経営者が評価される社会です。当然利潤追求が使命なのですから儲からない分野には投資しません。

では農業は?利潤も大切ですが、農業にはもっと大きな使命があります。国民の命を守るという大きな使命です。私が良く「農は国の基なるぞ」という言葉を引用しますが、農に対する考え方のポイントがこの言葉にあります。よく安全保障という言葉が使われますが、国も国民もこの言葉からは「軍事力」しか連想しないようですが、一番の安全保障は食料の確保です。1億2千万人の国民がどんな時でも飢えないことが一番の安全保障なんです。今のように自給率が37%では安全保障なんて言える状態ではありません。

こんな状態になってしまった原因はひとえに考え方にあります。国も国民も農業に対して儲かるか儲からないかの基準で判断しているからです。いかにしたら効率良く利益があがるか?

諸外国はどうでしょう。農家の所得に対する国の財政負担の割合でみると・・・・日本は15、6%、アメリカ26、4%(別に輸出補助金制度あり)、ドイツ70%、フランス、イギリス、スイス90%。

ドイツ、フランス、イギリス、スイスに至ってはまるで公務員です。これらの国々は農業を単なる利益追求の手段として考えるのでなく、国を守る安全保障として考えているのです。

という事で農業に対して儲かるか儲からないかの質問は意味がありません。

私は農家は学校の先生と同じく「聖職」と考えています。利潤追求の世界を超えた世界です。

 

今までが総論。次に各論に入ります。

あえて利潤追求という観点から慣行農業(農薬、化学肥料を使用。 一般的な農業)と有機農業の形態の違いを考えてみます。日本の全耕作面積の0、2%しかない有機農業を慣行農業と同列に比較するのもおこがましいですが・・・

先ず慣行農業から。兼業農家を除いて専業農家は儲けるための農業、利潤追求の農業です。私はこれを「農業の工業化」とよびます。少ない種類の作物を大量に作付けし、まとめて出荷する。当然大規模な耕作地が要りますし、大型の機械、多人数の労働者も必要です。作物をベルトコンベヤーに乗せて生産するイメージです。但しどんなに頑張ってもアメリカやオーストラリヤ、ブラジルのような大規模農家には狭い国土の日本ではかないません。その不可能なことを奨励しているのが現在の日本政府です。

次に有機農業についてはどうか。大量生産するには難しい形態です。結論から言うと有機農業で利潤をあげることは至難の業です。農薬を使わない分、常に発生する害虫との戦になります。少ない品種の作物では危険性が大きくなります。そのため有機農家はたくさんの種類の作物を栽培します。そうやってこの作物がダメでも他の作物で保険つなぎできるようにほとんどの有機農家は多品種の作付けをします。そうでなくても多品種の栽培は手間(労力)がかかります。有機農家でなんとかやれている例として多いのは夫婦二人で農業をやってる場合。労働者の一人分の給料が要らない計算です。もう一つのパターンとして、旦那さんが農作業をやり、奥さんが旦那さんの作った野菜の加工をするという方法です。

先月号にも書きましたが、国からなんの補助もない有機農家は歯を食いしばって自分の理念を追求しているのが現状です。私の友人の有機農家Tさんが常に言ってる言葉「農業なんて儲からへんでー。やめとき!」というのが口癖です。でも当の本人は歯を食いしばって奥さんと無農薬の野菜、お米を作り続けているのです。

 

かずみの農感記

 

少しずつ夏野菜が終わりしばらく農場に野菜が少なくなっていきます。冬に向けてどんどんタネを蒔いていきます!

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